英語論文をわかりやすく書くためには、文章の必要ない箇所を省くことが大切です。でも英文における「無駄」な箇所とは何でしょう?そしてどうやって省くものなのでしょうか。今回は3つのポイントをご紹介します。
英語論文や記事を (最初から英語で!) 書いてる時は、伝えたいことをとにかく文字で表すことに集中し、文章の美しさや正しさにこだわる必要はありません。
文章の細かい流れ、正しさ、表現などを修正するのは草書が書き上がってから。この編集の段階で、文の意味をわかりにくくしている「無駄」をカットすることが大切です。
「無駄」って何?
まず「無駄」とはどういうことを指すのでしょうか。英語では「clutter」と言いますが、Merriam Webster 辞典では以下のように定義されています:
…a crowded or confused mass or collection
日本語では「乱雑、混乱」「取り散らかっているもの」などと訳されているようですね。
文章における「clutter」とは、何の役割も果たさない単語や句を指します。
そのような言葉や句のことを、著者・編集者・大学講師・そして英語文の書き方の専門家ウィリアム・ジンサー氏は、「雑草」と呼んでいます。大切な部分を隠し弱める邪魔な存在なわけです。
(ちなみに、政府や企業はわざと「cluttter」を利用して、責任逃れや事実を隠したりすると言われこともあり、「clutter」にはいい印象はありません。)
どうやって「無駄」を省くの?
よりストレートに相手に要点を伝えるために、この邪魔な部分をカットすることが大切になります。
ここでは「無駄を省く」3つのポイントをご紹介します。
☑ 動詞を救い出す
ネイティブの学術英語でもよくあるのが「名詞化」(英語ではnominalizationと言います)。動詞を名詞に変えることですね。
例えば、「investigate」や「analyze」という動詞を「investigation」や「analysis」という名詞にすることです。
学術論文では以下のよう例をよく見かけます↓
名詞化されたもの | 動詞だと… |
---|---|
We provide a review of… | We review… |
The group conducted an analysis of… | The group analyzed… |
It presents a comparison of… | It compares… |
We give consideration to… | We consider… |
It makes an assessment of… | It assesses… |
名詞化自体は文法的な間違いではありませんし、学術論文ではよく見かけます。が、使いすぎてしまうと文章がわかりにくくなってしまうという難点を持ちます。
名詞は動きが伝わりにくい
それというのも、名詞は動詞に比べると動きがないため、その文章が表している「行動・行為」がわかりにくいからです。
動詞を使った方が、誰が何をしたのかという点が読み手にストレートに伝わります。1
むやみに動詞を名詞に置き換えてしまうと「何が行われた」か読み手がいちいち考えなければならなくなります。ほんの一瞬のことかもしれませんが、積重なれば読みにくくなってしまいますよね。
論文の意図を理解してもらうために書いているのに、わざわざ難しくするのは本末転倒です。
名詞化すると、単語数が増える
また、名詞化すると必要な単語数も増えてしまいがちです。上の表でも、名詞化した方(左欄)がまどろっこしくなっているのが一目瞭然ですね。
他にも「~である」を直訳すると頻繁に現れる「there is/are」というフレーズも、伝えたい「行動・行為」を隠してしまってることが考えられますので、編集時に注意してみてください。
例えば↓
原文 | 編集後 |
---|---|
There are many ways to explain this outcome. | We can explain this outcome in many ways. |
「There are」よりも「can explain」の方がアクティブですし、「誰が」その行動を取ってるのかという主語がはっきりします。日本語ではやんわり伝えたいことでも、英語では「誰が」「何をする」という点が明白な文章が好まれるのです。
この様に「行動・行為」を直に表す動詞に切り替えると文章自体に動きが加わり、よりストレートに意味が伝わります。
「アカデミックに聞こえるから」という理由で名詞化するのは避けましょう。
▶ ポイント
- 文章の「行動」を見つけ、それが名詞であれば動詞に戻して文章を調整する。
- 「〇〇をした」「〇〇があった」という意味のフレーズ(”there is”等)やtake, make, giveなどの動詞は、名詞が使われてる目印となります。名詞を動詞に変え、もっとダイレクトな文章にできないか検討してみましょう。
- -tion, -sion, -ment, -ence, -anceなどで終わる名詞も動詞に変えられるものが多いので、確認してみましょう。
- 特に日本語から英訳している場合は、「~である」系の文章に(編集段階で)気をつけてみてください。
☑ 重複をカットする
同じことを繰り返してるような文章は、編集段階でどなたも省いてらっしゃると思います。
以下のような重複にも気をつけてみてください:
- 書いてる時には2つ違う要点を伝えてるつもりが、読みなおしてみると同じような意味になってしまってる・自分ではしっかり違うことを書いたつもりでも、他人が読むと違いがわからない…ということもありますので、できれば同僚など他人の目を借りて指摘してもらうのもおすすめです。
- 他にもよく見かけるのが、提言してから「in other words…」と説明を加えた場合、その説明文だけの方が(もとの提言よりも)わかりやすいことがあります。「in other words…」の後に続く部分だけでも十分か、前半の提言が必要か・もっとわかりやすく言い換えられないかなど、見直されてみてはいかがでしょうか。
さらに重複はフレーズ(文節)レベルでも現れます。
なんとなく使ってるフレーズも考えてみれば意味が同じ単語で成り立ってる…というのは意外と多いものです。ネイティブの方でも気づかず使ってます。
例えば「the round circle」と書いたとします。「round」も「circle」も「円」という意味で重複していますよね。「Circle」のみで十分ということです。
例をいくつか(イタリックの部分は不必要):
単語ペア | 解説 |
---|---|
depreciated in value | 「depreciated」というのは、「価値(value)が下がる」という意味なので「in value」はすでに含まれてる。 |
general consensus | 「consensus」というのは、全員・全体で合意したという意味。「general」ではないconsensusはあり得ない。 |
final outcome | 「outcome」とは「最終結果」なので、「final」という意味は含まれてる。 |
join together | 「join」も「together」も「合わせる」という意味で、重複。 |
mutual cooperation | 「mutual」(「相互」)でない「cooperation」(協力)はあり得ない。 |
出版大手Random Houseの編集者であり著者でもあるBenjamin Dreyer氏がこのような重複ペアのリストを公開しているので、ぜひ目を通してみてください:‘Close’ Proximity, ‘End’ Result, and More Redundant Words to Delete From Your Writing.
▶ ポイント
- 単語のペアや文章で同じことを繰り返してないか見直しましょう。上記のDreyer氏の「redundant pairs」リストはおすすめです。
- 似たような要点の見分けがつかなくなってしまった場合は、言い換えたり説明を補ったりしてそれぞれのポイントの区別をつけましょう。
- 「In other words…」と説明を加えた場合、説明文だけの方がわかりやすかったりすることもあるので、見直してみてください。
☑ 「フィラー」を削る
スピーチやプレゼンをする時、咳払いをしたり「え~」「あ~」という言葉(?)がついつい出てしまいますよね。
これらは英語でももちろんあり、「フィラーfiller」(「繋ぎ」)もしくは「throat clearing」(「咳払い」)と言います。
でも「フィラー」の使用は口語だけの現象ではありません。
執筆する時も書くリズムを掴むまで、あまり意味のない前置きなどから始めるのはよくあること。
学術論文の「フィラー」には例えばこういうのがあります↓
It is important to note that… I further point out that… An important aspect, which must not be overlooked, is that… It would appear to be the case that… It should be emphasized that…
このようなフレーズは日本語からの英訳にもよく現れますので、日本語式の論文から英語式に変換する時に入ってくるのかもしれませんね。
執筆中にいちいち気にしていたら筆が進まないので、その段階では気になさらなくて大丈夫です。
が、単刀直入に重要点を述べる方が英文としてインパクトがあります。編集時にこれらのフレーズをばっさり省いてしまいましょう。
▶ まとめ
- 上で出した例のようなフレーズがないか原稿をチェック。気になるところを見つけたら、ハイライトしてみてください。
- それらの文・フレーズ・単語がなくても意味が十分伝わるか確認してみます。大丈夫なら、不必要なものは容赦なく削除しましょう。
(この他にも「短い単語を使う」「短い文章を書く」などのコツもあります。)
参考サイト等2
もっとclutter、重複、フィラーの例やわかりやすい英文についての参考文献などです。ほとんど英語ですが、日本語でも役立つサイト等がありましたらコメントにお願いします☆
☘ コース・授業
- “Writing in the Sciences“: 無料のオンライン教育サービスCourseraを通してスタンフォード大学が提供するコース。より効果的な(科学)著者になる方法を教えてくれる。科学者向けだけど、執筆・編集の基本はどの学科でも使える。とてもおすすめ!
☘ 著書
- William Strunk, Jr. 1920. Elements of Style. 特に第3章”Elementary Principles of Composition”がおすすめ。(リンク先は、著作権切れの1920年版。Project GutenbergからePubとKindle版のダウンロードが可。)
- Ernest Gowers. 1954. The Complete Plain Words. 60年前に執筆され、今もなお有意義なポイントがいっぱい。例を読んで思わずクスクス笑ってしまいました。(カナダでは著作権切れ。)
- William Zinsser. 2006. On Writing Well: 30th Anniversary Edition. 「clutter」についての一章があり。下の記事もご参照ください(「伝説のアメリカ人ライターに学ぶ、よい文章を書くための17の心得」、 「5 ways to declutter your writing」と「William Zinsser’s top 10 tips on writing well」)。
- https://liginc.co.jp/296778
☘ オンライン記事
- 伝説のアメリカ人ライターに学ぶ、よい文章を書くための17の心得:
- 英文の単語数を減らすコツ: Nominalization (名詞化)を避ける:単語数を減らすよりも、通じやすい英文にする役割の方が大切かと思いますが(^^;
- Common Grammatical Errors: Wordiness: ヨーク大学の、完結な文章の書き方アドバイス。例もあり。
- Over the Limit: How to Reduce Your Research Paper’s Word Count: 科学系編集者Claire Bacon氏が、単語数を減らす実用的なコツを教えてくれます。
- 5 Ways to Declutter Your Writing: The Thesis Whisperer (edited by Associate Professor Inger Mewburn, The Australian National University) 著。ジンサー氏の本から得た5つの執筆のアドバイスを紹介。
- William Zinsser’s Top 10 Tips on Writing Well: ジンサー氏の本のサマリー、by Arun Agrahri for The Writing Cooperative on Medium。
- 20 Clutter Words & Phrases to Avoid: 削除してもいい単語やフレーズを、わかりやすくまとめたインフォグラフィック。Writers Writeより。
伝わりやすい英文になるお手伝いをいたします。クライアントさまが必要としている英語をしっかり把握し、安心のサービスを提供します。まずはご相談ください☆