“Write succinctly”「簡潔に書け」…英文ライティングでよく言われますが、具体的にどうすれば簡潔な文章にできるのでしょうか。まずは短い単語や文章を使うことから始まります。
“Write succinctly, write concisely”—「簡潔に書け。」英文ライティングでよくアドバイスされますが、実際どうすれば「簡潔」な文章になるのかピンとこないかもしれません。
コロンビア大学の生物学科のガイド “Writing a Scientific Research Article” は5つのポイントを挙げています↓
- 名詞ではなく、動詞を使う (Use verbs instead of nouns)
- 動詞は「~である」という意味の”to be”ではなく、「強い」動詞を使う (Use strong verbs instead of “to be”)
- 短い単語を使う (Use short words)
- 簡潔な言葉やフレーズを選ぶ (Use concise terms)
- 短い文を書く (Use short sentences)
1と2の動詞については「英語学術論文のコツ:わかりやすい文章にする3つの方法」で詳しく書きましたので、今回は3~5の短い単語・フレーズ・文についてもう少し詳しくお話したいと思います。
[In this article…]
どうして簡潔な文章が好まれるのか
そもそも簡潔な文章がいいとされるのは、何故でしょう。
読み手はお客のようなものです。そのお客にとって読みやすい文にした方が、著者の伝えたいことをお客に理解し・受け入れてもらえます。
動詞が見えにくかったり無駄なフィラーが多かったりと理解を妨げる「雑草」が多い文章。難しい単語を連ねた長い文章。読みにくいですよね。
お客に伝えたいことが伝わらないどころか、さらに間違った理解をされてしまっては本末転倒です。
かと言って拙い文にすればいいと言うわけではなく、学術論文や記事に相応しい文でなければなりません。1
目指すべきレベルは「教養のある読者に理解してもらえる」文章。
American Journal of Epidemiologyの元編集長2のお言葉だそうです。
わかりやすい英語を使うと、信用度も上がります。(英文のブログです)
ある実験で2つのグループに、平易な言葉で書かれた保健関連の記事と難しい言葉で書かれた記事を読ませました。その後、記事の著者と記事の内容を信用できるかそれぞれのグループに聞いてみたところ、わかりやすい記事を読んだグループの方が断然高く「著者を信頼できる」「情報を信用できる」と評価したそうです。3
学術論文・専門家向けの記事・一般読者向けの記事。どんな文章にしても、対象読者にあったわかりやすい文章を目指したいものです。
気をつけるべき3点
前置きが長くなってしまいましたが、では具体的に簡潔なわかりやすい文章を書く3つのポイントを見ていきましょう。
☑ 短い単語を使う
長くて難しい(「アカデミック」な)単語よりも、短くてダイレクトな単語を使いましょう。
短い言葉は無駄に考えずに理解できるので、すんなり意味が伝わります。
特に今の世の中、英語ネイティブではない読み手が世界中に多くいますので、わかりやすい単語を選ぶことが重要です。
例えば、左欄の単語ではなく、右欄の方の単語を選びましょう。
こちらの単語の代わりに | こちらを使います |
---|---|
possess | have |
sufficient | enough |
utilize | use |
demonstrate | show |
assistance | help |
terminate | end |
Columbia University biology department, Writing a Scientific Research Articleより抜粋 |
▶ What you can do
- まずは、短い単語を堂々と使いましょう。難しい単語が思い出せないといって悩む必要はありません。
- 上のリストやPlain Englishキャンペーンの A-Z of alternative wordsリストに目を通してみましょう。自分が使いそうな単語があれば、書き留めておくといいかもしれません。
- 推敲段階で、リストにある気になる単語が原稿にないか探し(ハイライトすることも可)、短い方の単語に置き換えていきましょう。
- ご自身良く使う単語があるとお気づきになったら、自分用のリストを作ってみて下さい。短い単語を使うことに少しずつ慣らしていきます。
- もちろん、最終的に読み直したときあまりにも単調になってしまったと感じましたら、「難しい」単語を少し入れても全然問題ありません。ただ、「基本は短い単語」と意識していただければ良いかと思います。
☑ 簡潔な言葉・フレーズを選ぶ
単語と同様、フレーズも短いものを選びましょう。
下の表に例があります。左欄は長くて理解難度が高めのフレーズ。右欄は代わりに使いたい短い・簡潔なフレーズや単語です。
こちらのフレーズの代わりに… | こちらを使います |
---|---|
prior to | before |
due to the fact that | because |
in a considerable number of cases | often |
the vast majority of | most |
during the time that | when |
in close proximity to | near |
Columbia University biology department, Writing a Scientific Research Articleより抜粋 |
ちなみに、引用させていただいてるコロンビア大学のページに19世紀アメリカの作家・医学者オリバー・ウェンデル・ホームズ・シニアのこんな言葉がありました。
“I would never use a long word where a short one would answer the purpose. I know there are professors in this country who ‘ligate’ arteries. Other surgeons tie them, and it stops the bleeding just as well.”
Oliver Wendell Holmes, Sr.
訳すと、
私は短い単語を使えるところで長い単語は絶対使わない。例えば、この国には動脈を「結紮(けつさつ)する」博士もいるが、「結ぶ」だけの外科医でも十分に止血できるものだ。
オリバー・ウェンデル・ホームズ・シニア
▶ What you can do
- 上と同様、まずは短いフレーズを堂々と使いましょう。
- Plain Englishキャンペーンの A-Z of alternative wordsリストに目を通してみましょう。
- リストにある気になるフレーズが原稿にないか推敲段階で探し、短い方のフレーズや単語に置き換えていきましょう。
- ご自身良く使うフレーズがあるとお気づきになった時、自分用のリストを作ってみて下さい。短いフレーズを使うことに少しずつならしていきます。
☑ 短い文を書く
コロンビア大学のガイドには「40単語以上の文は、2つに分けて書き直したほうがいいだろう」とあります。
また、一文は15~20単語に留めるべきだとプレーン・ランゲージ・キャンペーンは言います。4
書き手としても短い文を書く方が楽なはずです。長い文章を書いているうちに何が主語でどこが述語かわからなくなってしまったり(実は私もよくあることです…^^;)、文法的間違いを犯しやすくなってしまったり…ということはありませんか?5
読み手にとって、要点をついた短い文の方が長く複雑な文より理解しやすいものです。5
▶ What you can do
- 一文につき一つのアイディアを表すことに留めましょう。
- 推敲段階で長い文章を見つけたならば、ハイライトしてみる。長い文章が続くようであれば、それぞれをもっと小さい文章に切り分ける。場合により、箇条書きできることもあります。
- 上でも見た長めのフレーズはないかチェックし、あればもっと短い単語などに置き換えてみてください。
- 能動態(active voice)と使う。能動態の方が手短にわかりやすく(単刀直入に)言いたいことを伝えられます。
能動態を使うと、文章を短くできることもあります。
受動態 passive voice: Researchers had their questions answered in a special session with Albert Einstein.
能動態 active voice: Albert Einstein answered the researchers’ questions in a special session.
(Adapted from example in “Plain Writing Tips – Passive Voice and Zombies,” Open Government at the National Archives.)
最後に。これらのポイントは、執筆中はあまり気になさらなくても大丈夫です。気にしすぎると書くのが苦悩になってしまうこともありますので…(^^;推敲段階にたどり着いたら、チェックしてみてください。
参考サイト
- Columbia University, Department of Biological Sciences. n.d. “Writing a Scientific Research Article.”
- Plain English Campaignのplain English toolsは役に立つだけでなく、けっこう笑わせてくれます(^^)特におすすめはA-Z of alternative words。長い単語の代わりに使える短くてわかりやすい言葉を教えてくれます。
- Ernest Gowers. 1954. The Complete Plain Words. 特に4章目”The Choice of Words: (2) Avoiding the superfluous word”をご覧ください(カナダではパブリックドメインとなっているので、電子書籍として読めます)。
- “Plain Language Guidelines: Write short sentences“にはわかりやすい例が。プレーンラゲージに関する読みやすいガイドラインが充実しています。
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Footnotes
- 幼稚な文章にすることを蔑んで “dumbing down” と言いますが、それとは違います。
- 故ジョージ・コムストック博士。同誌の編集者ゲイリー・フリードマン博士がコムストック博士にそう伺ったと、スタンフォード大学「Writing in the Sciences」でおっしゃってました(^^)
- Franziska M. Thon & Regina Jucks (2017) “Believing in Expertise: How Authors’ Credentials and Language Use Influence the Credibility of Online Health Information“, Health Communication, 32:7, 828-836, DOI: 10.1080/10410236.2016.1172296.
- “How to write plain English,” Plain English Campaign参照。
- 当然、全ての文が短くなければならないというのではありません。短・中・長と色々組み合わせるのも書き手のスキルですが、「長いほうがいい・格質が高い」という思いは捨てて大丈夫です。
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