プレーン・ランゲージ(plain language)というコンセプト、聞いたことありますか?読み手に伝わることに焦点をあてる文章は、学術英語でも使いたいものです。
プレーン・ランゲージとは、次の様に定義されています:
読み手が必要な情報を簡単に見つけ、見つけた情報を理解し使えるようにすることがプレイン・ランゲージの目的です。この目的を果たすために、的確に言葉を選び、文章の構成やデザインを行っているコミュニケーションを、プレイン・ランゲージと定義します。
Source: International Plain Language Federation
「読み手が」「簡単に」「必要な情報を」「見つけ」「理解し」「使える」コミュニケーション。
学術英語とどう関係あるのでしょうか。
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プレーン・イングリッシュ と プレーン・ランゲージ、どう違うの?
「プレーン・イングリッシュ」は、わかりにくい法律文章を一般の人でも理解できるように書こうという理念で始まりました。 言葉の選択や、文章の長さなどに気をつけ、わかりやすい文章を書くことに焦点を当てています。
一方、「プレーン・ランゲージ」は文章レベルに留まらず、デザインやユーザーのフィードバックなども取り入れた、さらに包括的なコミュニケーション方法のことだと言われます。1
このブログでは、ユーザーフィードバックの話まではしませんが、図・表・箇条書き・見出しなどを使って「情報の伝わりやすい表し方」も 考慮するので、「プレーン・ランゲージ」に一貫させていただきます。
学術英語にもプレーン・ランゲージ
さて「プレーン・ランゲージ」。これは実は学術英語にも使えます。
例えば下のような文章。
It establishes empirically and advances the hypothesis that theological characteristics that were facilitative of the birth and persistence of fundamental cultural traits instigated the evolution of compatible linguistic traits that have nurtured and augmented the dissemination and the intergenerational transference of these cultural traits over the expanse of human history. (1 sentence, 50 words, 30th grade reading level!)
読みやすいでしょうか?著者が伝えたいことがわかりますか?
私は頭を捻りながら何回も読み返しました。そして「こう言いたいのかな…?」というところまで来ましたが、はっきりはわかりませんでした。
このような例はありえないと思われるかもしれませんが、本物のジャーナル記事から抜粋した文を真似て作ったものです。
では以下の文章はどうでしょう。
We show that certain features of religion helped unique cultural traits to emerge. Those cultural traits, in turn, led to the evolution of complementary linguistic traits, which made it possible for humans to spread and pass down their culture over the generations. (2 sentences, avg. 21 words per sentence, 42 words total, 13th grade reading level)
さらにもうひとつ。
Specific characteristics of religions gave rise to unique cultural traits. Complementary linguistic traits then evolved, which allowed humans to spread and pass down their culture. (2 sentences, avg. 12.5 words per sentence, 25 words total, 12th grade reading level)
いかがでしたか?良い書き換え方はいくらでもありますが、元の文章よりはわかりやすい表現になったかと思います。
「学術論文を『平易な英語』で書くなんて、おかしいのでは?」
プレーン・ランゲージを訳すと「平易な言語」となりますが、格調高い学術論文を「平易な文章」で書くなどとはおかしいのでは?と思われる方もいらっしゃるでしょう。
「平易な文章」イコール「稚拙な文章」などと誤解されがちですが、違います。
たしかに欧米豪の公文などでは中学3年生レベル程度の英語の使用が推進されていますが、学術論文の読み手はもっと学歴のある方々だと想定できます。ですから、中3高いレベルの英語が使われるのは当然です。
かと言って、上の例のように読み手に意味が通じないほど難しい・わかりにくい英語では、本末転倒です。
読み手に見合った、わかりやすい文章を目指すのが、プレーン・ランゲージなのです。
プレーン・ランゲージの基礎
アメリカ国立公文書記録管理局(US National Archives)は、プレーン・ランゲージを書く時のポイントを次のように述べています。(勝手に翻訳させていただきました。)
プレーン・ランゲージは明確で、簡潔。わかりやすく整理され、対象読者に見合わせています。
Plain language is clear, concise, organized, and appropriate for the intended audience.Source: Open Government at the National Archives
- 自分のためではなく、読み手のために書く。
Write for your reader, not yourself.- 使える時は、代名詞(I, youなど)を使う。2
Use pronouns when you can.- 仔細を述べる前に、まずは一番重要なメッセージを明言する。3
State your major point(s) first before going into details.- トピックからぶれない。
Stick to your topic.- 一つの段落につき、一つのアイディアを。そして段落もできるだけ短く。
Limit each paragraph to one idea and keep it short.- 能動態で書く。受動態は必要最低限に留める。
Write in active voice. Use the passive voice only in rare cases.- できるだけ一つ一つの文を短くする。
Use short sentences as much as possible.- 普段使うような言葉を選ぶ。専門用語を使う場合は、初めてその用語が現れるところで説明・定義する。
Use everyday words. If you must use technical terms, explain them on the first reference.- 必要のない言葉は割愛する。
Omit unneeded words.- 文章の主語と述語をなるべく近くに置く。
Keep the subject and verb close together.- 読みやすいように、見出し・リスト・図や表などを活用する。
Use headings, lists, and tables to make reading easier.- 最後の校正を忘れずに。同僚にも見てもらおう。
Proofread your work, and have a colleague proof it as well.
日本のプレイン・ランゲージ促進団体Japan Plain English & Language Consortiumのウェブサイトにも9のガイドラインが記載されてます。
これらのポイントについてもっと詳しく今度書きたいと思います(^^)
プレーン・ランゲージは、英語ネィティブではない人の味方
執筆するにおいて、プレーン・ランゲージは英語ネイティブではない人の味方です。
誰にでも伝わるレベルの単語やフレーズを、無理せずに使えばいいからです。シソーラスを片手に、普段使わないような難しい単語を英語の「格調を上げるため」に探す必要はありません。
まずは「伝わりやすい」英語を目指してください。
↑上にもご紹介しました、アメリカ国立公文書記録管理局(US National Archives)のプレーン・ランゲージの基礎ポイントの翻訳を、印刷用にPDF化しました。是非ダウンロードして、ご活用下さい♪
【使い方】外部サイトへ飛びます。ご希望のアイテムをカートに入れて金額は「0」とし(ドネーションも大歓迎ですがw)、メールアドレスを入力すればダウンロードリンクが手元に届きます。
参考文献3
いきなりほとんど英語のみの参考文献ですが、ネイティブスピーカーにとってもまだまだ課題であることが伺われます。これらをヒントに、あとは練習するのみです!
☘ 日本語のプレーン・ランゲージ
- プレイン・ランゲージとは: まずは日本のジャパン・プレイン・イングリッシュ・アンド・ランゲージ・コンソーシアム (Japan Plain English & Language Consortium, JPELC) の解説をご覧ください。プレイン・ジャパニーズもあります(^^)
☘ プレーン・ランゲージのガイドライン
- What Is Plain Language? (Plain Language Association International): プレーン・ランゲージで書くときに気をつける、5つのこと
- Five Steps to Plain Language (Center for Plain Language): 上の記事に似ているけれど、書き方をもう少し詳しく説明
- NARA Style Guide (National Archives): このスタイルガイドの大半は、プレーン・ランゲージの書き方についてです(直接PDFファイルへ飛びます)
- Plain Writing Checklist (National Archives): プレーン・ランゲージ・ガイドラインに従って書けたか、チェック(リンク先のページからPDF版をダウンロードできます)
- US Federal Plain Language Guidelines (US Government): プレーン・ランゲージの書き方の詳しい説明。米政府ガイドラインをリンク先で探索してもよし、PDFをダウンロードしてもよし。
- A Plain English Handbook (US Securities and Exchange Commission, 1998): こちらも米国政府の詳しいガイドラインです。デザイン要素にも触れているのがプラスです。
☘ 学界におけるプレーン・ランゲージ
- “The Needless Complexity of Academic Writing,” Victoria Clayton, The Atlantic (26 October 2015): なぜ学術英語は必要以上に難しいのか。そしてその傾向を変えようとする動きとは。
- “Consequences of Erudite Vernacular Utilized Irrespective of Necessity: Problems with Using Long Words Needlessly,” Daniel M. Oppenheimer, Applied Cognitive Psychology 20: 139–156 (2006): 難しい文章の著者は、わかりやすい文章の著者よりも、知能が低く見られるという研究(ちなみに著者は「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に対して与えられるイグノーベル賞受賞者)
- “Wanted: Articulate Scientists,” Lily Whiteman, Science (10 November 2000): 資金調達の功績を上げたり研究内容をもっと幅広く理解してもらえる など、科学者がプレーン・ランゲージを使うことによって得する理由
- “Say What? The Benefits of Plain Language in Academia,” Sasha Im, University of Washington: 学界にとってもプレーン・ランゲージがなぜ必要か。簡潔なプレゼン(直接PDFファイルへ飛びます)
- “Why Simple Language Isn’t so Simple: The Struggle to Create Plain Language in Documentation,” Tom Johnson (27 July 2017): 研究者や学界の人間にとって、なぜプレーン・ランゲージを書くのが難しいのかを振り返る
- “What Is a Lay Summary?“, Jayashree Rajagopalan, Editage Insights (28 June 2019): 学術論文にプレーン・ランゲージの使用には今ひとつ賛成できない方でも、一般人向けの「レイサマリー」を書く必要があるかもしれません。そんな時こそプレーン・ランゲージを。
- 「論文レイサマリー(要約)の書き方のポイント」(4 March 2020)エナゴ学術英語アカデミー
☘ その他参考サイト
- Plain English Campaign:
このサイトのplain English tools は役立つだけでなく、笑わせてくれます。特にA-Z of alternative wordsは、難しい・回りくどい言葉やフレーズの代わりに使いたい言葉をリストアップしてるので、便利(例えば’advantageous’ →’useful’ or ‘helpful’、’by means of’→’by’、’due to the fact of’ → ‘because’・’as’等)。
☘ トレーニング
無料もしくはお手軽なお値段で受けられるプレーン・ランゲージ講習はまだあまりお見かけしないけれど、下記ので始めてみてはいかがでしょうか。
- PlainLanguage.gov: アメリカ政府のプレイン・ランゲージサイトにある、誰でも見られる動画やその他のリソースのリスト。まずはここから。
- NIH Plain Language Training: 公衆衛生情報を伝えるためのプレーン・ランゲージ入門オンライン講座。3時間くらいでさくさくっと終わらせるけど、基礎をしっかりカバー。無料。
- Monash University: Writing Clearly, Concisely and Precisely: 簡単なチュートリアルと練習問題いくつかで、プレーン・ランゲージの基礎を学べる。無料。
- Plain Language Training: International Readability Centreのプレーン・ランゲージの 概念 を紹介。無料。
- CIEP: Plain English for Editors (有料オンライン講座)
- Plain Language Academy (有料オンライン講座)
プレーン・ランゲージを利用して、わかりやすくプロフェッショナルな英語になるよう、クライアントさまのお手伝いをします。まずはご相談ください☆
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Footnotes
- 参考: “Plain language vs Plain English – a subtle but important difference”, Think-write.com.au
- ‘It is…’や’XYZ was done’など、主語がわからない「顔が見えない」文章ではなく、「誰が」行動をしたのか、するべきなのかがわかりやすくするために、代名詞を使います。
- 日本語の書き方とは違う点ですね。